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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9901号 判決

原告 釧路総業株式会社

右代表者代表取締役 東海林明

右訴訟代理人弁護士 中村健

同 二階堂信一

同 飯塚義次

被告 株式会社第一勧業銀行

右代表者代表取締役 村本周三

右訴訟代理人弁護士 奥野利一

同 稲葉隆

同 野村昌彦

主文

1  被告は原告に対し、金三七〇万円及びこれに対する昭和五一年七月一〇日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

主文同旨の判決並びに仮執行の宜言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  訴外株式会社ハヤマ物産(以下「訴外会社」という)は、昭和五一年六月三〇日、被告(名古屋ビル支店扱い。以下、単に「被告」という)に対し、別紙手形目録記載の約束手形(以下「本件手形」という)の不渡処分を免れるため、被告の加盟する名古屋銀行協会に提供させる目的で、三七〇万円を預託した。

2  原告と訴外会社は、昭和五一年七月二日、本件手形の決済につき、訴外会社が原告に対し二九〇万円を支払う旨の和解が成立し、これに基づき、右同日、原告が訴外会社に対し現金八〇万円を支払い、その見返りとして、原告は訴外会社から同会社の被告に対する不渡異議申立提供金三七〇万円の返還請求債権の譲渡を受けた。

3  そこで、訴外会社は、昭和五一年七月二日、訴外愛知信用金庫を通じて被告に対し、右債権譲渡の通知をなし、同通知は、同年同月八日ころ、被告に到達した。

かりに訴外会社が右通知をしたものとは認められないとしても、原告は、訴外会社の委託を受けて、右通知をしたものである。

4  原告は、昭和五一年七月二日、訴外愛知信用金庫に依頼し、被告を通じて不渡事故解消届を名古屋手形交換所に提出した。その結果、被告は、同年同月九日、右交換所から不渡異議申立提供金三七〇万円を返還を受けた。

5  よって、原告は被告に対し、不渡異議申立提供金三七〇万円及びこれに対する履行期の翌日である昭和五一年七月一〇日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因事実に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、原告と訴外会社との間に、預託金返還請求債権の譲渡がなされたことを否認し、その余の事実は不知。

3  同3の事実は否認する。

被告は、訴外愛知信用金庫から、「供託金は取立人に返還御願いします」「上記の件同意します」との文言下に訴外会社の記名捺印がなされた和解書一通の送付を受けたが、右文面中、債権譲渡の事実が明瞭に表示されておらず、かつ、右文書は訴外会社自から或はその代理人をもって作成されたものとはいいがたい。

4  同4の事実は認める。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によれば、原告は、訴外会社振出の本件手形を訴外株式会社兼商金丸物産から裏書譲渡を受け、これを満期の昭和五一年六月三〇日に支払場所である被告名古屋ビル支店に呈示したが、契約不履行を理由にその支払を拒絶されたため、同年七月二日、訴外会社代表取締役浜谷彰及び訴外株式会社兼商金丸物産の代表者と話し合い、その結果、右同日、原告が訴外会社に八〇万円を支払い、訴外会社が被告に対し預託した不渡異議申立提供金を原告において被告から受領することで示談が成立したこと、そしてその際、預託金の返還手続は原告が行なうこととし、同年同月四日ころ、訴外厚岸信用金庫に対し、不渡事故解消届の提出手続及び預託金の返還請求手続を依頼したこと、以上の事実を認めることができ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

右事実によれば、訴外会社は、昭和五一年七月二日、本件手形の不渡事由に関し、原告から示談金を受領し、もはや被告から預託金三七〇万円を返還を受ける必要がなくなったので、原告に対し、右預託金の返還請求債権を譲渡したものと認めることができる。

三  そこで、債権譲渡通知の効力について判断する。

1  《証拠省略》を総合すれば、つぎの事実を認めることができる。

訴外会社代表取締役浜谷彰は、前叙の示談をするに先立ち、本件手形の記載事項を表記し、かつ、和解事由として「上記の異議申し立てをしておりましたが、双方の話し合いの結果和解が成立しましたので異議申立の供託金の返還を御願い致します。供託金は取立人に直接御願い致します。」とタイプ印刷した和解書を用意し、昭和五一年七月二月、示談成立の際、これを持参し、「上記の件同意します」との添え書きを付して、これに原告、訴外株式会社兼商金丸物産、訴外会社が記名捺印した。そして、原告は、訴外厚岸信用金庫に対し、右和解書三通を交付して、不渡事故解消届出手続及び預託金返還請求手続を依頼した。そこで、右厚岸信用金庫の行員訴外中田靖は持出銀行の訴外愛知信用金庫に対し、右和解書二通を送付して事故解消届の提出方を求めたが、その際、取立依頼書の委任状を添付することを失念したため、爾後の手続が進行しなかったところ、その間に原告の督促もあって、被告に対し、とりあえず簡便な方法として本件手形を再交換にかけて迅速処理を電話で要望したが、被告からこれを拒絶されたので、やむをえず再交換をあきらめて、同年同月八日、訴外愛知信用金庫に電信で不渡事故解消届提出方を急請した。被告は、同年同月九日、右愛知信用金庫から不渡事故解消届及び前記和解書一通の送付を受けたので、名古屋手形交換所に右不渡事故解消届を提出し、右同日、同交換所から預託金三七〇万円の返還を受けたが、直ちにこれを訴外会社の預金口座に振込んで返還した。

右事実によれば、前記和解書には、原告と訴外会社との間で、預託金返還請求債権が譲渡されたことを直接的に表示した文言は記載されていないが、原告及び訴外会社並びに本件手形裏書人を含め、預託金の帰属に利害関係のある手形関与者全員の連名で、本件手形を特定したうえ、手形金支払の紛争で当事者間で和解が成立したから預託金の返還を求める旨及びその預託金を原告に返還することを依頼する旨が各記載されているのであるから、預託金の返還をすべき立場にある被告が右記載を通読すれば、全体として、これが預託金の権利者が誰であるかを表示したもので、具体的には、和解により預託金返還請求債権が訴外会社から原告に譲渡された事実を記載したものであることを看取すべきが道理であって、これをもって、原告が訴外会社から預託金の返還を受けることを記載したにすぎないものとか、被告が預託金を原告に支払うことを原告と訴外会社から被告に懇請する書面にすぎないものとみることは不合理であるといわざるをえない。もっとも、《証拠省略》によれば、被告は、訴外厚岸信用金庫から本件手形の再交換の依頼を受け、これを拒絶した際、同金庫に対し、預託金は当事者間で授受すべき旨を通告し、それで、和解書は被告にとって無意味なものと解して、預託金を訴外会社に返還したことが認められるが、原告ないし右厚岸信用金庫が予め和解書どおりの取扱を求めないことを明示していたことを認めるに足りる証拠はなく、しかも、《証拠省略》によれば、被告は右通告後に訴外愛知信用金庫から和解書の送付を受けたことが認められ、これらの事情と、預託金返還請求債権が当事者間で自由に譲渡しうる性質のものであることに鑑みれば、被告が右和解書の行間に債権譲渡の文言がないからといってこれを被告に無関係なものとして取扱うことはできないものというべきである。

2  ところで、被告は、右債権譲渡通知が、譲渡人たる訴外会社が発したものとはいえない旨主張して、その効力を争うので判断するに、前記認定事実によれば、訴外会社は、原告が預託金の返還請求手続を行なうことを前提に、前記和解書を作成交付したものであり、これに基づいて、原告が右和解書を訴外厚岸信用金庫に依頼して訴外愛知信用金庫を通じて被告に送付することを承諾したものであって、右和解書は、昭和五一年七月九日、被告に到達したのであるから、右債権譲渡の通知は、訴外会社自身が履行したものとはいいがたいけれども、原告が訴外会社の意思に基づきこれを代行したものと認めることができる。したがって、右通知は譲渡人たる訴外会社の発したものとして昭和五一年七月九日その効力を生じたものというべきである。

3  以上によれば、被告は、名古屋手形交換所から預託金の返還を受けた場合、原告に対しこれを返還すべき義務があるものといわざるをえない。

四  請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

そうすると、被告は原告に対し、本件不渡異議申立提供金三七〇万円及びこれに対する履行期の翌日である昭和五一年七月一〇日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

五  よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 遠藤賢治)

〈以下省略〉

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